こんにちは。作業療法士Sです。
前回の記事では、調査研究の進め方や留意点等について書いていきました。
今回は量的研究について書く前に、研究題目や研究デザイン、研究仮説について書いていこうと思います。
研究題目(トピック)について
研究題目(トピック)について考えていきます。
研究題目(トピック)の生成
- 臨床場面で抱いた疑問
- 文献を読んで抱いた疑問
- 学会・研修会・講習会で抱いた疑問
治療場面で抱いた疑問に関して、変数はどの様になるでしょうか?
例)介入変化の差、行動の差…
研究題目(トピック)の選択
- 興味を持てる研究領域から行う
- 1つの研究から、1つの知見を導き出す
アイデアは忘れてしまうことがあるので、研究ノートを作ると良いかもしれません。
研究疑問について
研究疑問について書いていきます。
- 研究者の専門職領域に関連するもの
- 研究者の専門職学問体系に寄与するもの
- 研究目的が有用であること
- 研究疑問の検証が実証可能であること
研究疑問を妥当なものにするために
- 研究疑問が理論的枠組みを基盤にしているか
- 研究疑問が他の人々にとって意義があるものか
- 研究疑問はどの様な変数を対象とするのか
- 研究実施に必要な環境はあるか、研究対象・協力者は確保できるか
研究疑問が理論的枠組みを基盤にしているか
・医学、心理学、栄養学、看護学、発達学、社会学、生体力学、運動学習、システム理論、民俗学などの理論を背景にして、過去の研究成果と連続し、臨床場面で有効となる
研究疑問が他の人々にとって意義があるものか
・数学、哲学、倫理学、宗教学などの研究と保健医療福祉の研究は異なる
・研究には価値(対象者に関与する応用科学としての価値)が求められる、対象者や臨床家、家族、社会制度、システムとしての価値が必要である
研究疑問はどの様な変数を対象とするのか
・人物や対象物、状況を表す特性であり、異なった価値として取り扱うことができるもの
IQ、身長、体重 など
血液型、人種 など
分類の数値化
※独立変数、従属変数に関して
(Independent Variable)
・実験状況下では、研究者は変数を操作し、その影響が他の変数に現れることを調べる。この実験状況下での変化の原因となる変数を独立変数という
(Dependent Variable)
・実験状況下で、独立変数によって起こされた変化を測定される対象としての変数を従属変数という
例)座位の角度変化が把握動作の正確さに及ぼす影響という研究
独立変数:座位の角度変化
従属変数:把握動作の正確さ
となります。
研究実施に必要な環境はあるか、研究対象・協力者は確保できるか
・研究機材、測定装置、研究費、統計ソフト、調査員などの環境や資源の確保が必要となる
・性別や年齢、人種、居住地、血液型、変数への帰属、障害の程度、発症からの日数、家族の有無、資産の有無など、研究に必要な対象者の属性を有した協力者の確保の問題がある
研究のデザインについて
主な研究デザインは8つあります。
- 叙述的デザイン
- 相関関係的なデザイン
- 実験的なデザイン
- コホート研究デザイン
- ケースコントロール・スタディ
- 介入試験
- ランダム化比較試験
叙述的デザイン
・事象についての記述を行うもの
・この形式では、サンプルを利用して、統計学的な媒介変数について説明を加えるもの
例を挙げると…
選挙の投票率、政党や候補者の動向の予測
相関関係的なデザイン
・この形式では、2つあるいはそれ以上の変数についての関連を調べるもの
例を挙げると…
幸せとIQに関する研究
実験的なデザイン
・この形式では、1つの変数(独立変数)がもう一つの変数(従属変数)に影響を与えることを研究するもの
例を挙げると…
・アスピリンを服用することで熱が下がる
・看護介入により対象者の褥瘡が改善する
・栄養指導により尿酸値が変化する
コホート研究デザイン
・疫学的研究法の1種
・投薬群と非投薬群に区分し、比較分析をして因果関係を調べるもの
・ある集団の生活習慣を調査し、この集団の今後に向けて調査して、疾病の発症や健康状態の変化を確認する研究手法
・ある集団が特定の条件下に置かれたことを調査し、この集団の過去の経過を調査して、疾病の発症や健康状態の変化を確認する手法
ケースコントロール・スタディ
・疫学研究の1つで、症例対照群研究と呼ばれる
・ある疾患に罹患した「症例(case)」を選択する、「症例」と性別や年齢などの要因が一致する「対照(control)を選ぶ。「症例」と「対照」の双方に対して、疾病の原因と考えられる要因をさかのぼって調査し、両者で比較する
介入試験
・研究者が、研究対象集団を複数(2群以上)のグループに分け、各々に異なる治療法や予防法、その他健康に影響する要因の介入または非介入を行い、結果を比較する研究
・研究対象社の治療内容及び生活習慣、生活行動を、研究目的で意図的に操作(介入)する研究
例を挙げると…
プラセボ(偽薬)や実薬を用いた二重盲検試験
ランダム化比較試験
・介入に伴う歪み(バイアス)を排除する目的で、被験者を無作為(ランダム)に治療群と比較対照群に割り付けて比較検討を行う
この方法が、最も信頼性が高いデザインだと言われています!
研究仮説へ向けて
研究仮説を立てる前にやるべきことが3つあります。
- 問題となる領域を確定する
- 文献の調査を行う
- 問題点を明白で適切な用語によって定義付ける
問題となる領域を確定する
・臨床場面にて自らの実践から生じた重要ではあるが答えを得られない疑問等は、探究心を与え、良い動機となる
・自らの学問的な興味に純粋な問題点を研究展開していくことが望ましい
・調査を進めていく可能性の高い領域においては、研究が行われる必要性のある「意味のある研究疑問」が存在する
文献の調査を行う
・文献研究を行うことは、誰かが先んじて行っている研究を繰り返すという危険を排除してくれる
・文献研究は、研究者の思考を組織化し、文脈の中に研究疑問を位置付けてくれる
・文献研究において、研究題目に対して有効で受け入れやすい方法論を入手し、旧式である方法論や道具を排除することができる
問題点を明白で適切な用語によって定義付ける
・研究で何を行おうとしているのかを詳細にしておくことは重要
・文献研究をもとに、自分の研究を過去の研究や理論に基づいて何を明白にしたいのか、研究の正確な意図を説明できることが大切
限定された対象群に明白な操作定義を加えた具体的な研究疑問をもった内容にしましょう。
対象群、操作定義、仮説検証、群間比較に着目です。
研究仮説について
・2つ以上の変数の関連性について推測を加えた記述
仮説を立案するときは、変数は定性を代表するものにしましょう!
(変数ではないもの、誤謬(誤り)に注意しましょう)
・仮説を立案することは、検定を受けて確らしさを確認する過程を予定している
・研究者の仮説が「指向性を持ったもの」か、「指向性を持っていないもの」か明白にする
指向性を持った仮説とは、変数間の関連の傾向を示すもので、
指向性を持たない仮説とは、変数間の関連の傾向を明示しないものです。
・仮説は、正当な理由があると認められるものでなければならない
理論や論理性、過去の研究、臨床の実践から矛盾しないと判断されるべきものです。
帰無仮説
・仮説検定により、最終的に棄却されるだろうと研究者が設定した仮説
対立仮説
・仮説検定により、最終的に選択されるだろうと研究者が設定した仮説
まとめ
今回は研究題目や研究疑問、研究デザイン、研究仮説について書きました。
研究は文献を読んだり、臨床場面で疑問を抱くところから始まります。
ついデータが集まってくると「あれも言うことができる、これも言うことができる。」となるかもしれませんが、
なにを疑問に思い、仮説を立て、研究をしたのか、1つの研究から1つの知見を導き出すことが大切です。
次回は量的研究について書いていこうと思います。