こんにちは。作業療法士Sです。
今回は上肢の運動学について、肩関節を中心に書いていこうと思います。
人類の進化
生物は頻繁に新しい適応性を進化させ、周りの環境に最も合わせられる適応性を持つ種を広げていくと言われています。
人類は“手=足”の四足歩行から、周りの環境に適応していくために、二足歩行を獲得、道具の使用へと進化していきました。
実際には人間の進化の物語は「the March of Progress」のような線形過程ではなく、信じられないほどに複雑な系統樹になると言われています。
上肢と下肢の違い
- 機能目的は多目的
- 機能の左右差は大きい
- 関節の自由度は大きいが不安定
- 肢長の機能的影響は少ない
- 機能目的は歩行
- 機能の左右差は小さい
- 関節は荷重関節として安定
- 3cm以上の肢長差で跛行
上肢の機能的要素
複合的な肩関節
肩関節は、上肢の方向性を決める役割があります。
肩関節は4つの関節の複合体です。肩が運動するときにはそれぞれが連動して動きます。
- 胸鎖関節
- 肩鎖関節
- 肩関節(肩甲上腕関節)
- 肩甲胸郭関節
肩甲胸郭関節は滑膜関節ではなく、機能的な関節です。
肩甲骨の運動
- 僧帽筋上部繊維
- 僧帽筋中部繊維
- 僧帽筋下部繊維
- 肩甲挙筋
- 肩甲下筋
- 菱形筋
- 前鋸筋
- 小胸筋
- 鎖骨下筋
- 内転
- 外転
- 挙上
- 下制
- 上方回旋
- 下方回旋
肩甲上腕関節
肩関節は可動性がある代償に骨性の安定性に乏しい
関節の支持性を関節窩周囲の関節唇・靭帯・腱・筋によって補っている
肩甲上腕関節の特性
- 安定性に基づいた運動性の微妙なバランス
- 適切な肩の機能は、関節窩内に骨頭中心をいつでも位置させることに依存する
- 肩甲骨のアライメントの変化と上腕骨のアライメントの変化は相互依存的な関係
関節窩と骨頭とのアライメントの関係
三角筋は外転に働く強力な筋だが、外転初期は棘上筋の働きが主
肩甲骨が重力に対してアライメントを維持できなければ棘上筋は機能しない
棘上筋が機能しないと、亜脱臼を生じます。
またこの状態では三角筋は持続的に引き伸ばされてしまい、“stretch weakness”になっていまします。
回旋筋腱板(rotator cuff)
回旋筋腱板によって、関節の「動的」安定性を保ちます。
- 棘上筋
- 肩甲下筋
- 棘下筋
- 小円筋
棘上筋は擦り切れやすいので要注意です…!
肩が効率良く働くためには?
腱板が上腕骨を肩関節にしっかりと引き寄せられるように働くためには、筋肉の関係から、上腕骨と肩甲骨ができるだけ一直線上に並ぶことが必要です。
3次元的に考えると、この時の上腕骨と肩甲骨および腱板の形は円錐になります。
肩の「ゼロ・ポジション」とは三次元的に考えるとこのような円錐ができていることを指します。
(上図、右側は肩甲骨の動きが足りないために円錐ができていません…)
両手で頭を支えハンモックで寝そべるときなど、この時肩は最もリラックスし長時間疲れない姿勢になると言われています。
「ハンモック・ポジション」をとると、肩は自然に「ゼロ・ポジション」になります。
肩甲上腕リズム
教科書的には、肩甲上腕リズムとは上腕骨と肩甲骨の動きの比率の事で、腕を約45°より上に上げると肩甲骨と上腕骨は2:1の割合で動くこと、とされています。
その他のポイントとして、次のことを意識することも大切です。
- 肩甲帯が動くときは、いつでも筋が協調的に働くことが大切
- 拮抗筋も遠心性の収縮が要求される
- 肩甲骨下角の可動性が要求される
- 肩甲骨の回転軸は固定されていない
肩鎖関節
肩鎖関節は半関節で、非常に不安定です。そのため烏口肩峰靭帯によって補強されています。
烏口肩峰靭帯は⑦円錐靭帯と⑧菱形靭帯とでできています。
肩甲胸郭関節
肩甲骨は胸郭上に浮遊しています。そのため、筋で固定・運動が生じます。
- 僧帽筋上部繊維
- 僧帽筋中部繊維
- 僧帽筋下部繊維
- 肩甲挙筋
- 肩甲下筋
- 菱形筋
- 前鋸筋
- 小胸筋
- 鎖骨下筋
- 挙上・下制
- 外転・内転
- 上方回旋・下方回旋
前鋸筋と僧帽筋
前鋸筋と僧帽筋の共同作用によって、肩甲骨を安定させます。
前鋸筋の筋力低下によって肩甲骨が浮き出てくる「翼状肩甲」に注意しましょう。
補足)翼状肩甲
翼状肩甲は、前胸部の問題も考慮する必要があります。
- 小胸筋、烏口腕筋、上腕二頭筋短頭の過緊張も翼状肩甲を作る要因
- 烏口突起はいわゆるハンガーのフックの役割がある
- 小胸筋は肋骨を上に引き上げ、前胸部の開きを制限する
前鋸筋と菱形筋のバランス
前鋸筋が機能するためには、腹斜筋との協調性が必要です。
菱形筋との相反作用にも注意しましょう!
まとめ
今回は上肢の運動学について、肩関節を中心に書いていきました。
上肢の動きについて機能解剖的にどのような構造か、皮膚の下で骨格がどの様に動いているかイメージすることの一助になれば幸いです。
次回も上肢の運動学について、肘関節などを中心に書いていこうと思います。