こんにちは。作業療法士Sです。
今回は、治療場面で使用する道具とその特性を中心に書いていこうと思います。
治療道具
治療段階に応じて、手に合わせて変形してくれる素材から硬質な素材へ変更していきます。
手に合わせてくれる素材
以下のような特性のものを選択しています。
- 程よい重量感があるもの
- 手のひらや指の間に入れることができるもの
- 変形しやすいもの
- (馴染み深いもの)
お手玉、雑巾(タオル)、新聞紙、ペットボトル
例)ペットボトル
- 中に入れるものにより操作感覚に富む
- 硬さ・幅が異なり事で多様性に富む
- 変形する特性により、しっかりした把持が確認しやすい
- 透明なため、手指に力が入った時の感覚を視覚的にも確認することができる
- 容易に準備・破棄することができる
少しでも持ちやすいようにとペットボトルを開発される方々は研究されているので、「把持する」という治療目的に使うにはピッタリかもしれません。
硬質な素材
例)積み木
- 形、大きさ、色・模様が多種多様
- 積み上げる、ひっくり返す、並べる、投げる、叩くなど多様な動作が可能
- 段階的な体幹の抗重力伸展活動を促す
- 空間における調節的なリーチ活動とつまみを促す
- 慎重にのせていき、集中力を養う
その他
例)風船
- ゆったり穏やかに漂う
- 強く打っても滞空時間が長い
- 打った時の衝撃が少ない
- ゆったりした追視による頭頸部と体幹部の持続的な構えを促す
- 座位・立位姿勢の保持やバランスの改善を促す
- 発動性の向上・覚醒注意の持続を促す
- (集団でのコミュニケーションを促す)
介入として、
・抗重力伸展活動の望ましい反応が得られたら持続できるように高めに打つ
・左右に打ち分け、運動範囲を広げていく
・しりとりや計算をしながらラリーをする(同時課題を増やす)
など、様々な使い方ができます。
日常で使用する道具例
食物を口まで運ぶために食物を変形・加工する
筆記具の素材を紙に擦り付け痕跡を残す
操作対象への剪断力をもとに物を破壊する
筆記具
筆記具の違い
筆記具と一言でいっても様々な種類があります。
今回は鉛筆、ボールペン、サインペン各々を例に挙げていきます。
顔料を細長く固めた芯を軸で挟んで持ちやすくしたもので、主に紙に筆記するために使われる。
芯を紙に滑らせると、紙との摩擦で芯が細い粒子となり、紙に顔料の奇跡を残すことで筆記する。
先端に金属・セラミックの極小の球が填め込まれており、このボールが筆記される面で回転することにより、ボールの裏側にある細い管に収められたインクが筆先表面に送られて線を筆記する。
ペン先に繊維質を用いて毛細血管現象を利用してインクを供給し筆記する。
書く・描くこと
白い紙の上にマークをつけるという視覚的探索の出発点は、比較的小さなエネルギー消費から、意外にも大きな結果を得るという探索と報酬の原理の関係をもっている
初めて鉛筆と紙を前にした時、子どもは決して有望な状況にあるわけではない。できることは、鉛筆で紙の表面を叩くことだけだ。ところが、これは楽しい驚きになる。叩いたら音をたてるだけではない、視覚的な効果も生ずるのだ。鉛筆のしっぽから何かが出てきて、紙の上にしるしを残す。線が引けたのである。
デズモンド・モリス「裸のサル」より
大人向けのぬり絵を書店などで見かけるようになりましたね…!
習字
訓練場面で習字を選択することもあります。
柔らかな空間的操作で、筆の持ち方にこだわらず
・毛筆の弾性を活かす
・毛筆の先端を常に先行させる
・肘を軸として、前腕が伸展、回旋するように誘導する
・運筆のリズム・テンポを意識する(とめ、はらい など)
刃物
ハサミ
・2枚の刃が交わった点に、紙・布が挟み込まれ剪断応力が発生し、材料が破壊され切断される
・刃の接触時にピンポイントで剪断する力を集中するように、刃はわずかに捻られる
・握りの構造が輪になっているので、指を通すとそれが支えになってくれるので、対向した手の構えが作りやすい
・指の随意性の開発(尺側安定性向上、母指の動き促通)
・手内在筋の促通
・手部の切る活動に協調された、リーチ動作の安定(肩のプレーシング、肘の伸展)
操作手
・基本的には前進、その位置で挟むのではなく、前に進んで切るというイメージ
・母指の方向に手を出し、受け止めるように手背から他指を受け止めて、その結果母指が押し切っているという形に誘導する
・運動の切り替えはリズミカルに行う、力みが入りやすい場合は注意する
・開く方は全介助、力を抜くよう協力してもらう
・切り替えをリズミカルに行う
非操作手
・もっている場所から紙全体のバランスを調整していく
・刃への定位を安定的にしていく
・操作手に合わせた適切な紙の送りが滞らない様に協応していく
まとめ
今回は、治療場面で使用する道具とその特性を中心に書いていきました。
上肢機能に対する治療はプログラムに積極的に取り組んでいく必要があります。
その際、使用する道具の特性や期待される反応を意識して行う事が、より効果的な治療へつながっていくと考えられます。